として地方政府が決定していれば分権とすると、日本の財政システムは明らかに集権システムである。つまり、日本の財政システムは集権的分散システムだということができる。
このように地方政府から公共サービスの決定権限を中央政府が奪っていくチャネルは、大きく二つある。一つは機関委任事務であり、もう一つは補助金である。機関委任事務とは地方政府の首長を、中央政府の機関と見做して委任する事務である。道府県の実施している事務の8割から8割5分、市町村の実施している事務の4割から5割が機関委任事務だといわれている。
このように機関委任事務が中央政府の決定した事務を指令によって実施させる仕組みなのに対し、補助金は財源を与えることによって中央政府の決定に地方政府を誘導する仕組みである。イソップの寓話にたとえれば、前者は北風的統制、後者は太陽的統制ということができる。
こうした北風的統制と太陽的統制によって、日本の地方政府は中央政府の決定した公共サービスを画一的・統一的に供給している。現金給付や生産関連社会資本であれば、こうした画一的・統一的供給でも問題はない。ところが、地域住民の生活に密着した現物給付は、こうした画一的・統一的供給では不可能となる。生活に即応した多様な公共サービスが供給されないために、画一的・統一的公共サービスに規制されて生活せざるをえなくなる。そのため生活に即応した現物給付は不足し、ゆとりも豊かさも実感できないことになってしまうのである。
5. 「歳入の自治」の回復
日本の財政システムを分権化しようとすれば、まず地方分権推進委員会の『中間報告』が主張しているように、機関委任事務を廃止することである。しかし、太陽が北風に勝ったという寓話の教訓を忘れてはならない。北風的統制を廃止しても、補助金という太陽的統制をそのままにすれば、集権的性格は強まりこそすれ、弱まることはない。
しかし、なぜ日本の地方政府が補助金に誘導されてしまうのかといえば、それは日本の地方政府に「歳入の自治」がないからである。前述のように、日本の財政システムは分散システムである。公共サービスは主として地方政府が供給しているにもかかわらず、「3割自治」といわれるように、地方政府は地方税によって3割を上回る程度の財源しか調達できない。
しかも、地方政府には自由に、地方税を設定したり、地方税の税率を引き上げたりする権限はない。さらに、地方債の起債も統制されている。そうなれば日本の地方政府は、新たに企画した財源を、中央政府が与える財源に期待せざるをえなくなる。ところが、中央政府が与える財源のうち、交付税は使途が自由とはいえ、新規企画事業に対応して地方政府が増加させるわけにはいかない。
そうなると地方政府は、補助金獲得に走らざるをえない。しかし、補助金を獲得することは、中央政府が決定した事業を受け入れることを意味する。つまり、日本の地方政府は「準禁治産者」扱いの「歳入の自治」のない政府なのであり、そのために補助金に誘導されてしまうのである。
したがって、太陽的統制を打破するには、地方政府が「歳入の自治」を回復しなければならない。そのためには交付税によって必要行政水準の財源を保障された上で、地方税という自主財源によって地方財政が運営できることを基本として追求していかなければならない。つまり、地方分権の第一歩は、地方税と国税を通じる抜本的税制改革を断行し、地方税を拡充することにある。
その上で、地方税と地方債に対する統制を緩和し、交付税の配分にも地方政府が参加できる仕組みを追求していく必要がある。それによって地方政府が「歳入の自治」を回復することなくして、日本における地方分権はありえないのである。
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